「ビザなしで海外移住」は可能?その3つの国の真実と注意点
「いつか海外で暮らしてみたいけれど、ビザの取得が大変そう…」「ビザなしで移住できる国って本当に存在するの?」そう考えている方もいるかもしれませんね。たしかに、長期滞在や移住には通常、その国が定めるビザ(査証)の取得が不可欠です。しかし、一部の国では、特定の条件を満たせば「ビザなし」で比較的長く滞在できたり、永住権を取得しやすい制度があったりする場合があります。
この記事では、「ビザなしで海外移住ができる」と言われることのある3つの国の具体的な状況と、その裏に隠された注意点を徹底的に解説します。安易な情報に惑わされず、現実的な移住計画を立てるためのヒントを見つけていきましょう。
「ビザなしで海外移住」の定義を明確に
まず、「ビザなしで海外移住」という言葉の定義を明確にしておく必要があります。
- 一般的な観光ビザ免除: 多くの国では、日本人であれば90日程度の観光目的での滞在はビザなしで可能です。しかし、これはあくまで「観光」が目的であり、就労や長期滞在(移住)は認められていません。90日を超えて滞在する場合は、必ず何らかのビザが必要です。
- 「ビザなしで移住に近い滞在」の意味: ここで言う「ビザなしで移住」とは、厳密な意味での「ビザなしで永住」を指すわけではありません。多くの場合、観光ビザでの滞在を繰り返したり、比較的簡単に長期滞在ビザが取得できたりする国を指していると考えられます。また、投資や特定スキルによって永住権が得やすい国も含まれることがあります。
この点を踏まえ、以下で「ビザなしで海外移住ができる」と言われることのある国とその実情を見ていきましょう。
「ビザなしで海外移住ができる」と言われる3つの国とその実情
1. マレーシア:MM2Hプログラム(現在一時停止中、再開予定)
マレーシアは、比較的温暖な気候と物価の安さ、そしてアジア諸国へのアクセスの良さから、長期滞在先として非常に人気の高い国です。ここでよく言われる「ビザなし移住」に近かったのが、「マレーシア・マイ・セカンドホーム(MM2H)プログラム」です。
- 概要: このプログラムは、マレーシア政府が外国人向けに提供していた長期滞在ビザプログラムで、永住権ではないものの、一定の条件を満たせば最長10年間(更新可)のマレーシア滞在が許可されていました。就労は原則として認められませんが、不動産購入や起業は可能でした。
- 「ビザなし」と言われる理由: 厳密にはビザが必要ですが、一般的な就労ビザや学生ビザと比較して、比較的緩やかな条件で長期滞在が可能だったため、「移住しやすい」という意味合いで「ビザなし」と表現されることがありました。
- 現在の状況(2025年6月時点): **MM2Hプログラムは、2020年以降、新規申請が一時停止されており、現在も再開されていません。**今後、条件の見直しが予定されていますが、以前よりも条件が厳しくなる可能性が示唆されています。そのため、現時点では「MM2Hでビザなし移住」はできません。
- 注意点:
- プログラムが再開されても、従来の条件(資産証明額など)が引き上げられる可能性があります。
- 就労は基本的にできないため、現地での収入源は期待できません。十分な貯蓄や年金が必須となります。
2. タイ:リタイアメントビザなど(厳密にはビザが必要)
タイもまた、温暖な気候、親日的な国民性、豊かな食文化、そして安価な物価から、長期滞在先として人気の高い国です。
- 概要: タイには、50歳以上の外国人を対象とした「リタイアメントビザ(Non-Immigrant O-A Visa)」があります。これは厳密にはビザが必要な制度です。
- 「ビザなし」と言われる理由: 日本のパスポートがあれば30日間(入国回数により最大90日間まで延長可)の観光ビザなし滞在が可能ですが、これはあくまで観光目的です。しかし、この短期滞在を繰り返すことで、長期滞在に近いことをしている人がいる、という状況が「ビザなし」という誤解を生んでいる可能性があります。 また、リタイアメントビザは、他の国の長期滞在ビザと比較して、比較的資産証明の条件が緩やかだった時期があったため、「移住しやすい」という意味で「ビザなし感覚」と表現されることがありました。
- 現在の状況(2025年6月時点): リタイアメントビザの取得には、80万バーツ(約350万円)以上の預金証明、または月収6万5千バーツ(約28万円)以上の収入証明が必要です。就労は認められていません。これらの条件は定期的に見直される可能性があります。
- 注意点:
- 観光ビザでの長期滞在を繰り返すのは、厳密には不法滞在とみなされるリスクがあります。
- ビザの条件は予告なく変更される可能性があるため、常に最新情報を確認する必要があります。
- 現地での医療費は自己負担となるため、海外旅行保険や海外居住者向け医療保険への加入が必須です。
3. フィリピン:リタイアメントビザ(SRRV)など(厳密にはビザが必要)
フィリピンも、英語が公用語である点や、物価の安さから、リタイア後の移住先として人気があります。
- 概要: フィリピンには、「特別居住退職者ビザ(SRRV: Special Resident Retiree's Visa)」というリタイアメントビザがあります。これもビザが必要な制度です。
- 「ビザなし」と言われる理由: SRRVは、一定額を預金する(年齢やプログラムによる)ことで、永住権に近い形でフィリピンに長期滞在できる制度です。他の国と比較して、比較的低額な預金で永住権が得られるため、「移住しやすい」「ビザなし感覚」という表現が使われることがあります。
- 現在の状況(2025年6月時点): SRRVにはいくつかのプログラムがあり、例えば、35歳以上50歳未満は5万ドル、50歳以上は1万ドル~2万ドル程度の預金が必要とされています(プログラムや選択肢により異なる)。預金はフィリピン政府が指定する銀行口座に預け入れる必要があります。
- 注意点:
- 預金した資金は、プログラムによって引き出し制限があったり、不動産購入などにしか使えなかったりする場合があります。
- 就労は原則認められていませんが、SRRV取得後に申請すればワークパーミットを取得できる可能性もあります(要確認)。
- フィリピンの医療水準や治安状況は、地域によって大きく異なります。
安易な「ビザなし移住」は危険!長期滞在・移住の現実
上記の国々で「ビザなし移住」が可能と言われる背景には、何らかの長期滞在プログラムやビザ制度が存在していることがほとんどです。完全にビザなしで永住できる国は、基本的に存在しないと考えて良いでしょう。
安易に「ビザなし」という情報に飛びつくと、以下のようなリスクに直面する可能性があります。
- 不法滞在: 観光ビザ免除期間を過ぎて滞在し続けると、不法滞在となり、罰金や強制送還、再入国拒否などの重い処分を受ける可能性があります。
- 就労不可: ビザの種類によっては就労が認められないため、現地で収入を得ることができません。
- 医療・社会保障の問題: 現地の社会保障制度を利用できないため、病気や事故の際に高額な医療費が発生するリスクがあります。
- 永住権の難しさ: 長期滞在ビザと永住権は別物です。永住権の取得は、多くの国で厳しい条件が設けられています。
まとめ:移住は計画的に、情報を正確に!
「ビザなしで海外移住」という言葉は、魅力的に聞こえるかもしれませんが、その実情は多くのケースで「特定の条件を満たすことで長期滞在が可能になる」というものです。
マレーシア、タイ、フィリピンといった国々は、確かに長期滞在やリタイア後の移住先として魅力的ですが、それぞれにビザの条件、資金の要件、そして生活上の注意点が存在します。
後悔しない海外移住を実現するためには、以下の点を徹底しましょう。
- 常に最新の情報を確認する: 各国の政府機関や大使館・領事館の公式情報を必ず確認しましょう。
- 専門家のアドバイスを求める: 移住コンサルタントや弁護士など、専門家の助言を求めることも重要です。
- 現地視察を行う: 実際にその国を訪れ、自分の目で現地の生活環境や文化を体験することが何よりも大切です。
夢のような「ビザなし移住」の言葉に惑わされず、現実をしっかり見据え、綿密な計画と準備を重ねて、あなたの理想の海外生活を実現してくださいね。