占有者がいたらどうする?競売の『引渡命令』と強制執行、スムーズな立ち退き交渉の進め方


差し押さえ物件のオークション(競売)を検討する際、多くの方が最も不安に感じるのが「落札した物件にまだ人が住んでいたらどうしよう」という点ではないでしょうか。テレビドラマのような強引な取り立てを想像して、恐怖心を持つ方もいるかもしれません。

しかし、現代の競売手続きは法律によって明確にルール化されています。正しい手順を踏めば、トラブルを最小限に抑えて物件を明け渡してもらうことが可能です。今回は、落札後の最大のハードルとも言える「占有者への対応」と、法的な対抗手段である「引渡命令・強制執行」について詳しく解説します。


1. 占有者(住んでいる人)の種類を把握する

まずは、3点セットの「現況調査報告書」や「物件明細書」を確認し、誰がどのような権利で住んでいるのかを把握しましょう。

  • 所有者本人とその家族: 最も多いパターンです。家を失う喪失感から感情的になっているケースもありますが、法的な対抗要件はないため、基本的には明け渡しに応じる必要があります。

  • 正当な賃借人: 抵当権設定前から住んでいる賃借人は、落札後もそのまま住み続ける権利(賃借権の対抗力)を持っている場合があります。この場合は、追い出すことはできず、あなたが新しい大家となって契約を引き継ぎます。

  • 占有権原のない第三者: 知人や親族が勝手に住み着いているケースです。これらは不法占拠に該当するため、法的な手続きで排除可能です。


2. スムーズな解決のための「立ち退き交渉」のコツ

いきなり裁判所の手続きに頼るのではなく、まずは誠実な「話し合い」から始めるのが鉄則です。相手も「これからどうなるのか」と不安を抱えています。

相手の状況に共感し、出口を提示する

「出ていけ!」と強く迫るのではなく、「所有権が移転したので、今後の住まいについて相談させてください」と柔らかく切り出しましょう。

  • 引っ越し費用の補助(引越代): 本来、落札者に支払い義務はありません。しかし、裁判所を通して強制執行を行うと数十万円の費用がかかります。その費用を「引っ越し代の援助」として相手に渡すことで、早期に、かつ円満に退去してもらえるケースが多々あります。

  • 猶予期間の設定: 「1ヶ月以内に退去してください」など、現実的な期限を提案します。

「落札者」という立場を明確に伝える

あくまで事務的に、所有権が自分にあることを証明する書類(代金納付期限通知書など)を見せながら、法的な手続きも並行して進めていることを伝え、心理的な「期限」を感じてもらうことも重要です。


3. 強力な法的武器「引渡命令」とは?

話し合いが平行線に終わった場合や、相手が交渉自体を拒否した場合には、すみやかに法的手続きに移ります。その第一歩が**「引渡命令」**の申し立てです。

  • 概要: 裁判所が占有者に対し、「物件を落札者に引き渡しなさい」と命じる裁判上の決定です。

  • スピード感: 代金納付から6ヶ月以内であれば、比較的簡単な手続きで申し立てが可能です。

  • 執行力: この命令が出ても退去しない場合、次のステップである「強制執行」へと進むことができます。

昔の競売に比べて、現在は落札者の権利が強く守られるようになり、この引渡命令が非常に出やすくなっています。


4. 最終手段「強制執行」の流れと費用

どうしても退去に応じない場合の最終手段が、執行官による**「強制執行(断行)」**です。

  1. 催告: 執行官が現地に赴き、「〇月〇日までに退去しない場合は強制的に荷物を出します」という公示書を貼り出します。

  2. 断行: 指定された日に鍵を開け、専門の業者が室内の荷物をすべて搬出し、倉庫に保管(または廃棄)します。

  3. 完了: 鍵を交換し、晴れて物件が完全にあなたの手に入ります。

注意点: 強力な手段ですが、執行費用(予納金)や運搬業者の人件費などで、数十万円単位のコストがかかります。これを避けるためにも、事前の交渉で「引っ越し代」を提示する手法が一般的なのです。


5. トラブルを避けるための「占有移転禁止の仮処分」

交渉中に占有者が別の第三者に物件を貸し出したり、住人を入れ替えたりして、手続きを妨害してくるリスクがあります。

これを防ぐのが**「占有移転禁止の仮処分」**です。これをかけておくことで、その後に住人が変わったとしても、最初の引渡命令に基づいて強制執行を行うことが可能になります。リスクが高いと感じる物件では、引渡命令と同時に申し立てるのがプロのやり方です。


6. まとめ:冷静な対応が「安さ」を「利益」に変える

占有者への対応は、競売において最も神経を使う部分ではありますが、決して「怖い」だけのものではありません。

  • 話し合い(アメ): 引っ越し代の提示や丁寧な説明

  • 法的措置(ムチ): 引渡命令と強制執行の準備

この両面をバランスよく進めることで、ほとんどのケースは解決します。自分で行うのが不安な場合は、競売専門のコンサルタントや弁護士に依頼するのも賢い選択です。

「人の住んでいる物件は避ける」という選択も一つですが、あえてこうした物件を狙い、スマートに明け渡しを完了させることこそが、競売の醍醐味であり、大きな収益を生むポイントでもあります。


差し押さえ物件のオークション(競売)で理想の住まいを叶える!初心者向け完全ガイド